イタリア人のライフスタイルの神髄

−ミラノに14年間住み着いて分かったことー

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3 イタリア人のライフスタイル

(3)食(mangiare )−その2

世界中の料理で美味とされるのは、フランス料理、中国料理、イタリア料理、それに我が日本料理この四つというのがどうやら確立した評価といっていいだろう。

小生もどちらかというと食道楽の方で、世界の65か国に足を踏み入れ、その地の料理を口に入れてみたが、この評価にうなずくものである。

料理に関してはずぶの素人である小生ではあるがあえて言わしていただくと、フランスと中国料理はそれぞれの巨大な帝国の下で生まれ、その富を象徴するような風格を持っているのに対し、イタリアと日本のものは自然の中に謙虚な姿勢で人が溶け込みその恵みをいただくという風格を持っているように思う。

イタリア料理の起源は、ナポリ王国にあるとイタリア人は言う。そこでピッツァやスパゲッティが生まれた。それまでは料理を手でつまんで食べていたのをフォ―クなるものを考えだしそれで料理を口にする食文化を生んだ。1533年メジチ家のカテリ‐ナ王女がフランスのブルボン王朝のアンリU世に嫁いだ時、当時ヨ―ロッパで最高位にあったイタリアの食文化をフランスに持っていったといわれている。それまでフランスの王朝でも料理は手でつまんで食べていたという。

その後フランスはヨーロッパ大陸のど真ん中の最も肥沃な大地を抱え農耕により巨大な富を生み出しブルボン王朝を築き、華麗な文化を生み出した。その一つがフランス料理であった。イタリアから学んだものを加味として作り出したのだが、彼等が生み出したものは王朝の偉大さや華麗さを誇示する文化であり、それはファッションや食の分野にもはっきりと現れているように思う。例えばフランス料理の前菜は色とりどりの素材に実に手をかけたものが華麗に盛られている。主菜の肉でも魚でも素材を数時間もかけて煮込んで、その上に濃厚なソースをかけたものが目に付く。私の見るところ彼等には「人の手をかけたものほど美味になる」という考え方があるように思う。もう一つの例をあげよう。ス―プである。彼等は野菜を煮込んだものをそのままいただくのではなく、もう一つ手をかけて、布で漉して素材は取り除いて素材のうまみだけをいただく。

これがフランス料理の美味の世界だと思う。

私は仕事の関係で幸か不幸か、イタリア北部の大都市ミラノに十数年住み着いた。だからイタリアびいきのところがあるのはご容赦願いたいのだが、正直言ってフランス料理よりもイタリア料理の方が肌に合う。

日本では最高級の外国料理はフランス料理、次いで中国料理、イタリア料理はその次にランクされているように思う。明治維新の時欧米のものはすべて取れ入れる政策が取られ、当時ヨーロッパ食文化の最先端にあったフランス料理が最上級のものとして入ってきたのであろう。イタリア料理なるものが日本で知られるようになったのは、第二次大戦後アメリカ版のイタ飯が入ってきて、ピッツァやスパゲッティが紹介された。トマトケチャップをガバガバかけるあれである。

私は1960年代後半ポルトガルの子会社に勤務していた時イタリアに出張する機会があり、田舎の工場見学にいった。簡単な昼食をとろうということになり、たまたま見つけた田舎のトラットリアにはいった。そこのスパゲッティを口にしてそのソースの絶妙な味に思わず絶句をしてしまった。これが本物のイタリア料理との出会いであった。それから何千食のイタ飯を口にしたと思うがまずいと思ったことは一度もない。

小林 元 (こばやし はじめ)

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